退去時の掃除で気をつけておきたいポイント~原状回復について~

賃貸物件はあくまで賃主から借りているものです。自分のものではないので引越しをする際は、きちんと掃除をして返さなければなりません。しかし、どこからどこまで原状回復すればいいのかわからない方は多いでしょう。退去時の掃除・原状回復は、引越しの際によくあるトラブルです。よく、大家と原状回復で揉(も)めたという話を聞きます。トラブルに巻きこまれないためにも、退去時の掃除・原状回復について知識を身につけることが大切です。そこで、本記事では、賃貸物件の退去時の掃除や原状回復・退去トラブルなど詳しく説明します。

この記事を読むことで、退去時の掃除や原状回復について詳しくわかり、スムーズに引越しができます。退去時の掃除で不安な方、原状回復について知りたい方はぜひ参考にしてください。

1.賃貸物件の退去時の掃除について

マンションなど賃貸物件から退去する際、今まで住んでいた部屋をキレイにしなければなりません。賃貸物件の退去時の掃除について、定義や必要性など詳しく説明しましょう。

1-1.定義

賃貸物件は家主から借りる物件のことです。所有者は家主にあるため、借り主はきちんともとの状態にして返さなければなりません。賃貸物件の退去時の掃除は、国土交通省から出ている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で記載されています。ガイドラインによると、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、そのほか通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(きそん)を復旧すること」と定義されているのです。基本、当てはまる費用は賃借人の負担になります。

1-2.必要性

なぜ、退去時に掃除をしないといけないのか、疑問に感じている方は多いでしょう。たとえば、あなたが人に大切なものを貸したとします。返ってきたとき、大切なものが汚れていたらショックですよね。賃貸物件の退去時も同じことがいえます。次に住む人のためにも、キレイにすることが必要です。

1-3.借り主と賃主、それぞれの義務

借り主の義務は、今まで生活した感謝の気持ちをこめて掃除をしなければなりません。実際、掃除をせずに退去した人が、借り主からクリーニング代を請求されてしまうことがありました。自分が次借りるとしたらこのままでいいのか、じっくり考えてみてください。家賃が安くてもカビだらけだったり、部屋の床がべたついていたりすると住みたくないですよね。借り主は借りた当時の状態に戻す義務があります。しかし、どの程度キレイにするのかは家主や契約書によって異なるのです。詳細は後ほど、【2.原状回復】の項目で説明するのでぜひチェックしてください。そして、賃主は次の入居者確保のために、経年劣化による部屋の修繕をおこないます。

1-4.敷金について

敷金は、部屋を借りる人が家主に預けるお金のことです。家賃滞納や人に貸すことで汚されるリスクに対する保証金を指しています。もしものときのために使うお金なので、契約違反となる問題を起こさなければ返金されるお金です。しかし、借り主が故意や過失によって汚した汚れや破損があるときは、敷金を使って清掃・破損箇所の修繕をおこないます。近年は、敷金を返す・返さないで賃主と借り主がトラブルを起こすケースが多発しているので注意が必要です。

2.原状回復とは

敷金から精算される費用の中に、原状回復費用が含まれているケースがあります。不動産賃貸における原状回復とは何なのでしょうか。

2-1.不動産賃貸における原状回復とは

原状回復は、もとの状態に戻すことを指しています。もとの状態とは、不動産物件を借りたときの状態です。退去時、もとの状態に戻っているかどうかが、敷金返金の大きなポイントにもなります。また、原状回復では、借主と家主それぞれの義務が決まっているのです。どこからどこまでの状態がそれぞれの義務に当てはまるのか、原状回復の範囲を知ることが大切になります。より詳しく定められているのが、国土交通省から出ている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

2-2.借り主の原状回復義務とは

退去時のトラブルを防ぐためにも、借り主の原状回復義務について把握しておかなければなりません。これから、原状回復義務の発生メカニズムや敷金との関係について見ていきましょう。

2-2-1.原状回復義務の発生メカニズム

原状回復しなくてはいけないケースとしなくていいケースがあります。借り主の原状回復義務が発生するのは、「普段の使用で生じない汚れ」です。普段生活をしていてつかない汚れなどは、すべて借り主の責任になります。逆に、日常生活で出る汚れ、経年劣化は借り主の義務に含まれません。原状回復義務が発生する際、敷金よりも修繕費用がかかる場合は支払う必要があります。借り主負担となる例をいくつか下記に挙げてみました。

  • 冷蔵庫など大型家電・家具のサビ跡
  • キャスターつきイスなどによる床の傷
  • 不注意によるフローリングの色落ち
  • 飼育ペットによる傷・におい
  • 風呂やトイレなど水まわりのカビ・水垢(みずあか)
  • 壁のクギ穴やネジ穴

2-2-2.敷金と原状回復について

敷金の中に原状回復費用が含まれていると説明しました。そのため、借り主の原状回復義務が発生すれば、家主に渡していた敷金を使うことができます。けれども、敷金0円の場合、保証金を渡していないので自腹で原状回復をするケースが多いです。実際、敷金0円で済んだけれど、明け渡しの際に多額の原状回復費用を請求された方もいます。賃主から借りる際は、契約書の内容をしっかり確認しておかなければなりません。契約書に「借りた時点の状態に戻す」という特約があれば、原状回復費用は借主の負担になります。

2-2-3.敷金の返還について

借りた当時と同じ状態である限り、敷金は戻ってきます。しかし、敷金から修理費と掃除費・ハウスクリーニング費が差し引かれるため、全額がそのまま返ってくるとは限りません。敷金の返還の際は、賃主へ直接連絡しましょう。賃主との話し合いで敷金の返済額を決めます。不動産屋に仲介に入ってもらうのもいいですが、時間がかかってしまうでしょう。話し合いが難しい場合は、「内容証明郵便」と呼ばれる書類を作成して送付します。郵便局が記載されている内容を証明してくれるものです。必要な内容さえ記載すれば、手書き・パソコンでも作成できます。主な内容は以下のとおりです。

  • 賃貸借契約締結と敷金差し入れの事実
  • 賃貸借契約の終了と敷金返済額の見積書
  • 借り主が負担すべき費用
  • 借り主が請求する返済額

内容証明(郵便局公式HP)

2-2-4.賃主との信頼関係

自らの不注意や故意的につけた傷や汚れは、すべて借り主の原状回復義務に含まれます。もし、借り主か賃主の義務かわからない箇所があれば、家主に相談してください。実際に傷を見てもらい、話し合いを設けたほうが安心できます。ガイドラインがあったとしても、最終的に決めるのは信頼関係なのです。日ごろからキレイに使うことを心がけておけば、不動産会社や賃主との信頼関係を築くことができます。キレイに使うのも借り主の義務です。

2-3.賃主の義務

賃主が義務となるものを以下にまとめてみました。基本、通常の住まい方で発生するもの・建物の構造により発生するもの・次の入居者確保のためにおこなうものの3点が賃主の義務になります。

<通常の住まい方で発生するもの>

  • ポスターなどによるクロスの変色
  • 自然現象による畳の変色
  • 下地ボードの張り替えが不要である程度の画びょう穴
  • 設備機器の故障 など

<建物の構造により発生するもの>

  • 構造的な欠陥により発生した畳・フローリングの変色
  • ガラスの亀裂 など

<次の入居者確保のためにおこなうもの>

  • フローリングのワックスがけ
  • 網戸の交換
  • 浴槽・風呂がまの取り替え
  • 破損・紛失していない場合のカギの取り替え
  • 台所・トイレの消毒
  • 専門業者による全体のハウスクリーニング など

3.退去トラブルについて

原状回復ガイドラインがあっても、借り主・賃主の義務範囲はあいまいです。人それぞれ考え方が違うように、原状回復に対する見方も異なります。そのため、退去トラブルが増えるのも仕方がないことなのです。できるだけ、トラブルに巻きこまれないためにも、事前にトラブルを把握しておきましょう。

3-1.退去トラブルとは

退去トラブルとは、今まで住んでいた部屋を明け渡しするときに賃主との間で起こるトラブルのことです。原状回復に対する考え方の違いだけでなく、退去の予告期限、敷金返納などいろいろあります。退去トラブルの原因は、主に契約書の確認ミスです。部屋を借りる際、賃主との間に契約書を交わします。契約書には、原状回復・退去時の注意点など住まいにかんする必要事項が記載されているものです。きちんと読んでおかなければ、退去時に「契約書を守っていない」と訴えられることになるでしょう。

3-2.よくあるトラブル

それでは、実際にどのようなトラブルがよく起きているのでしょうか。主に挙げられるのは、ペット問題・タバコのヤニなどです。それぞれのトラブル内容について見ていきましょう。

3-2-1.ペット問題

ペット不可の賃貸物件で飼うのは立派な契約違反です。ペットによる過失・汚損・破損は、借り主が責任を持って原状回復しなければなりません。実際、ペットがつけてしまった傷やにおいを修繕するために、数百万円支払ったという方がいます。たとえ、ペット可の賃貸物件であっても契約内容によっては借り主の義務になるので注意してください。

3-2-2.タバコのヤニ

タバコのヤニによる汚れは、借り主・賃主どちらの義務になると思いますか? 借り主と賃主の考え方の違いによって、退去トラブルを起こすケースが増えているのです。原状回復ガイドラインでは、「喫煙などによりクロスがヤニで変色する・においが付着している場合は、通常の使用による汚損を超えるもの」と記載されています。そのため、借り主の費用負担になるケースが多いです。

3-2-3.そのほか

ほかにも、ハウスクリーニング代として高額な修繕費用を請求された、数か月間だけ住んだマンジョンなのに高額な修繕費を請求されたなど、請求金額のトラブルが増えています。できるだけ、賃主とトラブルになりたくはありませんが、納得できないまま支払うのも嫌ですよね。そんなときは、1人で悩まずに相談することが大切になります。

3-3.相談窓口

国民生活センターや消費者センターでは、退去トラブルにかんする相談を受けつけています。ホームページには、原状回復にかんするトラブルや返金されなかったマンションの敷金など関連情報が記載されているので、ぜひチェックしてみてください。また、直接賃主との交渉がしにくい方は、不動産会社に相談するといいですよ。

国民生活センター相談窓口はこちら

4.退去時の掃除・原状回復にかんしてよくある質問

退去時の掃除・原状回復にかんしてよくある質問を5つピックアップしてみました。退去時の掃除について知りたい方は、ぜひチェックしてください。

4-1.引越しのとき、掃除はどこまでするべきか?

キッチンやトイレなど水まわりのカビ取り、フローリングの水ぶき、不用品の処分はしておきたいですね。特に、水まわりのカビやシミには気をつけてください。そのままにして退去すると、特殊クリーニングの対象になります。市販のカビ取り剤などを使用して自分でできる掃除はしておきましょう。

4-2.借り主が負担する原状回復の費用相場は?

目安の費用相場は、坪単価2~3万円になります。原状回復をおこなう範囲や箇所・状態によって金額が大きく異なるでしょう。借り主が負担するかどうかは「意図的・不注意で傷をつけたか」にかかっています。日ごろから傷をつけないように気をつけておかなければなりません。

4-3.敷金返還の相場は?

全額返ってくることもあれば、敷金の10~20%だけということもあります。実際、敷金返還の金額は管理会社・賃主によってばらばらなのです。現在は、敷金を返還するケースも増えていますが、相場は15%~20%と低い状態が続いています。

4-4.敷金返還のポイントとは?

居住年数が長ければ長いほど、入居時と同じ状態に戻すのは難しいものです。しかし、「見た目がキレイ」というポイントを抑えておけば、敷金返還の確率があがります。部屋を見て、目立つ傷や汚れがあれば退去前に修繕・除去しておきましょう。

4-5.退去時のトラブルを未然に防ぐコツとは?

退去時のトラブル防止は、入居時が大きなポイントです。入居時に賃主や不動産会社一緒に部屋の状態を確認しましょう。入居前の傷や汚れを確認することで、退去トラブルのリスクが減ります。また、原状回復の範囲を賃主と確認し合ってください。お互いの考えを共有しておけば、トラブルになることもありません。

まとめ

いかがでしたか? 退去時の掃除は、感謝の気持ちと同時に賃主とトラブルを防ぐための大切な作業でもあります。目立つ傷や汚れを見つけたときは、できる限りキレイにしてください。ある程度部屋の見た目をキレイにするだけで、敷金が戻ってきます。入居時に賃主へ渡す敷金は、原状回復費用が含まれているのです。原状回復の必要がなければ、返済金額も増えます。もし、借り主、それとも賃主の負担費用になるかわからない傷・汚れなら、賃主・不動産会社に相談しましょう。退去トラブルを防ぐためにも、入居時に契約書や原状回復の事実確認をしてくださいね。問題なくスムーズに引越しができるよう原状回復ガイドラインを読んでおきましょう。